2022年(第23回コンクール)NIFC賞受賞 田久保 萌夏さん[2022年8月渡航]

この度はこのような光栄な賞を頂けた事、そしてこのような機会を頂けた事に心より感謝しております。初めは驚きのあまり実感がわかず夢のようでしたが、実際にワルシャワに行きショパンを色々な角度から知ることができ、未だに胸の高鳴りが鳴り止みません。そして、行く前と今とでは少し考え方が変化したように感じています。ワルシャワでの素敵な日々をお伝えできたら嬉しいです。

ワルシャワの街並み

以前から写真などでは見た事のあるはずのワルシャワの街並みですが、想像の何倍も美しく、何より日本と大きく異なるのが、建物など建築物の色でした。私は美術にはあまり詳しくはありませんが、ワルシャワに着いてまず初めに驚いたのは色の使い方でした。日本の建築物に比べ色鮮やかで、色の組み合わせ一つ一つがとても新鮮でした。この景色をショパンも見ていたのかと考えると何だか嬉しく、ここにあるもの全てが作品にも大きく影響していると考えるととても興味深くなりました。

また、道を歩いているとヴァイオリンやギター、トランペットなど色々な楽器を演奏している方々を頻繁に見かけました。日本では考えられない程あちらこちらから様々な楽器の音が聞こえ、それだけでも幸せな空間でした。

日常生活において

私はポーランド語はもちろん、英語すらまともに話せず、不安いっぱいの中ワルシャワへ向かいました。初日は買い物の仕方やレストランでの注文、とにかく何もかもわからず、このまま何日も生活できるのかという不安さえありました。それに加え、ポーランドでは英語を話せない方も多く、コミュニケーションひとつ取るにおいても一苦労でした。言語という壁の大きさを改めて実感し、恐怖心さえ抱いていた自分自身の気持ちが、大きく変化したと言えるのが現地でのガイドさんとの出会いです。英語すらわからない私に優しく何度も声をかけてくださり、その気持ちに何度も救われました。

また、ショパンについて説明して下さるガイドさんの英語はスラスラと耳に入ってきて、そこから英語への恐怖心は一気に消えました。予備知識がある上で説明を聞いた事も一つの理由かもしれませんが、それ以上にもっと知りたいもっと学びたいという興味が、言語への壁を壊してくれたように思います。これを機に、せめて英語だけでも少しずつ勉強しようと心に決めました。

レッスンを受講して

今回は、Janusz Olejniczak先生のレッスンを受講させていただきました。私の中で一つの課題ともなる、マズルカやポロネーズといったポーランドの舞曲のリズム。先生の弾いてくださるマズルカは、自然でとても美しく、体に染み込んでいるリズムのように聴こえました。具体的に何が違うのかというと難しい問題ですが、日本の踊りとポーランドの踊りのリズムやステップが違うように、小さい頃から常に耳にしている音楽にも差があるように思いました。だからといってショパンの作品を勉強していく上でとても大切な課題でもあるので、今回の旅で感じたことや見た景色、街で常に流れている音楽を自分の中に取り入れて、これからの作品作りに生かしていきたいと思います。

ショパンミュージアムを訪れて

ここではショパンの人生について学び、私から見るショパンの印象が大きく変化しました。ショパンの作品はとにかく繊細で、死に近づくとともに恐怖と絶望を感じるものが多いと考えていました。しかしながら、暖かい家族のもとに生まれ、愛する人を持ち、その人の毛髪を保存するほど、ショパンは愛で満ち溢れていたように思います。それらを踏まえてショパンの自筆譜を見ると、死に近づいてもなお希望を持ち、大切な人を想う愛と勇気はいつまでも消える事のないもののように感じました。これは私の勝手な考えではありますが、こういう考え方がまた一つ増えたことで、ショパンに対する自分の音楽の捉え方や表現の仕方の幅が広がっていくのではないかと思いました。

ワルシャワでのコンサート

限られた時間の中にも関わらず、多くのコンサートを聴きに行くチャンスをいただきました。ピアノリサイタルをはじめ、協奏曲や交響曲、歌曲など様々なコンサートに行きました。いくつものコンサートに行く上で、プログラムの構成がどれほど大切かという事を感じました。それぞれに意図の伝わるプログラムでしたが、その中で自分に合ったプログラムの構成とは何か、という事を何度も考えました。自分の良さを存分に生かせるプログラムを作るというのは一生の課題でもあり、今回の経験を経て自分自身の考え方も少し変化しつつあるように思います。そして、大きく贅沢な夢ではありますが、いつか私もワルシャワ・フィルハーモニーホールで演奏したい、そんな夢を実現させるためにも、もっと頑張りたいと心から思いました。本当に幸せな時間でした。

ショパン生家でのリサイタル

今回の旅の中で1番の楽しみでもあったショパン生家でのリサイタルは、一生忘れる事のできない幸せな時間となりました。お家を目の前にした時から感動で胸がいっぱいになり、演奏させていただいてる時には涙を堪えながら幸せを噛み締めました。演奏中にふと、小さい頃七夕の短冊に「いつかショパンのお家で演奏できますように。」と書いたことを思い出しました。好きなことを頑張れる環境を作ってくれた家族、どんな時でも見捨てず支えてくださった先生方、そして今回このような機会を下さった全ての方々に恩返しするためにも、これからも努力を惜しむ事なく、精一杯頑張っていきたいと改めて感じました。

おわりに

今回このような機会をいただき、一生に一度もない程の貴重な経験をさせていただきました。一週間は思っていた以上にあっという間で、充実した毎日でした。このような機会をいただいただけでなく、ワルシャワに行くにあたりたくさんの方々にサポートいただき、とても素敵な旅となりました。現地で感じた事やショパンの過ごした街と見た景色、耳にした音全てをこれからの成長につなげていくと共に、支えてくださる方々の存在あってこその今の自分がいる事を忘れず、周りの方への感謝を胸に今後も精進して参りたいと思います。