2020年(第21回コンクール) NIFC賞受賞 加古彩子さん[2022年8月渡航]

 この度、8月21日よりワルシャワに研修旅行に行かせていただきました。私は 2 年前に NIFC 賞を受賞させていただいたのですが新型コロナウイルスの影響で旅が 2 回延期となってしまい、漸く今回行かせていただくことができました。貴重な経験を多くお伝えしたいと思うあまりにとても長いレポートとなってしまいましたが、温かくお読み頂けましたら幸いです。

◆1日目

 朝 6 時過ぎにショパン空港に到着し、旅の間お世話になったショパン音大の寮ジェカンカに荷物を置いた後、ワルシャワの街を散策しました。世界遺産に登録されている旧市街やショパンの心臓が眠っている聖十字架教会、そして普通の飲食店やスーパーまで、目に映るもの全てが新鮮で心が躍りました。散策の途中で知り合いに教えていただいた楽譜屋さんを訪れ、エキエル版のショパンの楽譜をたくさん購入しました。(帰りの荷物が本当に大変でした、、)

 お昼には今回の旅をサポートしてくださった NIFC のカタジーナさん、ガイドのコンラッドさん、私と同じくヤングタレンツのモンゴル人のアリウンザヤさんと 5 人で食事をしました。ポーランド語のメニューが読めず、ガイドさんが英語で説明してくださっても理解できず、注文するのに一苦労でしたが、みなさんがとても優しくて楽しくお話ししながら初めてのポーランド料理をいただきました。昼食後はガイドさんにワルシャワの街を案内していただき、「ここがショパンが住んでいた建物だよ」「ここはショパンのお父さんが勤めていた学校だよ」等、教えていただきながら街を歩きました。

 寮に戻って 1 時間程度練習した後、急遽フィルハーモニーホールでの小林愛実さんの演奏会のチケットをいただき、聴きに行きました。YouTube 配信で観ていたショパン国際コンクールの会場、そして小林さんの前奏曲 op.28 を聴かせていただき、夢のような気持ちでした。演奏会後には現地に住む先輩にポーランド料理のお店に連れて行っていただき、伝統料理のピエロギを食べました。

聖十字架教会

◆2日目

 午前中はお昼からのレッスンに備えて練習に励みました。3 時間練習室を取っていただいていたのですが、練習を初めて 1 時間後に「今からここで歌のリハーサルをするから!」と団体さんに追い出されてしまい、部屋でイメトレをしました。外国っぽさを感じてなんだか楽しかったです。オレイニチャク先生のレッスンでは、26日の演奏会の曲目を聴いていただきました。音のイメージやテンポ設定、詳細のアーティキュレーション等を教えていただきました。お褒めのお言葉もいただき、リサイタルに向けて自信が付きました。

 レッスン後は、ガイドさんにワルシャワ国立美術館とワジェンキ公園に連れて行っていただきました。美術館では主に現代の作品を鑑賞し、ポーランドの芸術に触れ、色彩感や想いを汲み取りました。ショパンのバラードとの関連が伝えられているアダムミツケヴィチの肖像画やパデレフスキの肖像画、またシマノフスキが描いた絵もありました。ワジェンキ公園ではまずショパン像に出迎えられ、その後はワジェンキ宮殿を見ました。森林に癒されながらゆったり散歩をし、野生のリスや孔雀にも会うことができました。

 夜はフィルハーモニーホールでオーケストラの演奏会、演奏会が始まる前から既に歓声が上がる程の盛り上がりでした。オケのみなさんが心から音楽を楽しみながら私たち聴衆に届けてくれているように感じ、聴衆は演奏家の想いを暖かく受け取り、演奏者と聴衆がまるで一体となっているようでした。音の厚みに圧倒され、演奏家の想いに圧倒され、心の奥まで音楽に浸ることができた本当に幸せな時間でした。

2日目 朝の散歩

◆3日目

 この日は朝から街を散策しました。旧市街で歴史に触れ、その後はスーパーで現地の人に混ざって買い物をしました。ワルシャワのチョコレートは日本よりも甘くてとても美味しく、爆買いしてしまいました。午後はお世話になった NIFC のカタジーナさんに直接お会いできる最後の日だったので、お礼とお別れの挨拶をしに行きました。日本語のショパンの本やショパングッズをプレゼントしていただき、大切な宝物になりました。

 夜はフィルハーモニーでアンスネスとマテイアス ・ ゲルネの冬の旅を鑑賞しました。私は昨年大学で歌曲伴奏の勉強をしており、プロの演奏に圧倒されました。死をも感じる美しい作品に触れてホールにぽつんと自分 1 人しかいないような孤独を味わいながら、シューベルトの物憂げで儚い世界観に惹き込まれました。

◆4日目

 午前中はショパン博物館に行きました。ガイドさんに説明していただきながら、展示品と共にショパンの生涯を辿りました。私にとってショパンは偉大な作曲家で幻のようなとても遠い存在でしたが、ショパンが書いた手紙や演奏会のチラシ等の様々な展示品を実際に見て彼の短い生涯に思いを馳せながら、ショパンは本当にポーランドで生きていたのだということを実感しました。
 夜はフィルハーモニーホールでシモン ・ ネーリングの演奏会を鑑賞しました。1 音 1 音に想いが込められていて本当に美しく、色彩感と自然体な音楽がストレートに心の中に入ってきました。

フィルハーモニーホールにて

◆5日目

 ショパンの生家ジェラゾヴァ・ヴォラでのリサイタルでした。ワルシャワから車で移動する際には車窓から見える果てしなく広がるのどかな田園風景からショパンの幼少期に思いを馳せ、生家では美しい緑や花、鳥の声など自然に癒されました。演奏させていただいた部屋の壁にショパンと彼の家族たちの肖像画が掛かっており、まるで見守られているかのような気持ちになりながら、1 音 1 音を大切にショパンの作品を演奏させていただきました。旅で得た思い出や感覚を振り返りながら、そしてショパンに思いを馳せながら、自分の精一杯の演奏をすることができました。本当に本当に幸せなひとときでした。
 演奏会終了後は急いでワルシャワに戻り、オレイニチェク先生の 2 度目のレッスンでした。またまたお褒めのお言葉をいただき、これからも頑張ってねと笑顔で送り出してくださりました。

ジェラゾヴァ・ヴォラにて
リサイタル中

 27日朝にワルシャワを立ち、28日朝に成田空港に到着して旅が終わりました。毎日が本当に充実していて、思い返しながらこのレポートを書いている今でも旅の思い出全てが夢のようです。ワルシャワでショパンと向き合い、音楽と向き合い、自分自身と向き合い、これからの音楽生活への刺激になるとてもとても幸せな期間となりました。そして一生忘れることのない、大切な思い出となりました。感じたことを大切にしてこれからも真摯に音楽に向き合い、無限の音楽の魅力を生涯学び続けたいと思います。この度は貴重な機会を本当にありがとうございました。
 最後になりましたが、有限会社 アイエムシー音楽出版(ショパン国際ピアノコンクールinASIA事務局)、ポーランド国立ショパン研究所(NIFC)はじめ、関係者の皆様に厚く御礼申し上げます。